「A10神経は人間精神を創出する神経系へだけ進んで、他の脳へは向かわない。すなわちA10神経は人間精神にとって最重要な神経であることがわかるのである。A10神経は原始的な裸電線の無髄神経である。

無髄神経は端的に言って、神経細胞というよりもホルモン分泌細胞であって、ただ、ホルモン分泌細胞がその作用を迅速・正確にするために電線を利用しているというだけの構造である。したがって、A10神経はその細胞のどこからでも神経伝達物質(神経ホルモン)を分泌できるし、その神経の末端部は標的細胞と緊密なシナプス接続をつくっているわけではない。A10神経の端末部は多数に分岐し、しかも、末端肥大部は数珠のように連続し合っていて、これをヴァリコシティ構造という。

このようなヴァリコシティ構造の場合、個々の肥大部は標的細胞と密な接続部シナプスをつくっているわけではなく、特に脳内では半分以上、遊離しているといわれる。したがって、A10神経では、神経伝達物質というよりも神経ホルモンが使われるといったほうが正しい。ある情報をもった物質が全体的に、拡散的に、漠然と分泌されるのである。だからこそ快感や情動(喜怒哀楽)を体中に生ぜしめることができる。どこが楽しいというのではなく、体全体が楽しいのである。

このような感じが、快感や情動の本質であって、この種の漠然とした情報は、アナログ的(相似的)といわれる。これに対して言葉はディジタル的(離散的)であるから、したがって快感でも感情でも、言葉では的確に表現することができない。つまりA10神経は神経でも、その作用は全脳的、全身的であり、それによって生じる快感は、脳内麻薬や麻薬によって生じる快感に等しいものである。

このように、A10神経が用いる神経伝達物質(神経ホルモン)は、他の神経伝達物質や一般のホルモンと一味違っていて、特別に、ドーパミンと呼ばれる。ドーパミンは神経伝達物質の仲間ではあるが、アミン系の神経伝達物質の中では人間の大脳だけに最大多量に分泌される。人間にとってきわめて重要な神経伝達物質であるので、化学名をそのまま覚えておいていただきたい。」
大木幸介「脳内麻薬と頭の健康」1988講談社P.71-72

》このような感じが、快感や情動の本質であって、この種の漠然とした情報は、アナログ的(相似的)といわれる。これに対して言葉はディジタル的(離散的)であるから、したがって快感でも感情でも、言葉では的確に表現することができない《  アナログ的情報の視覚とデジタル的情報の聴覚、同様の働きが無髄鞘軸索と髄鞘軸索でもあるとして、ではその意味はと問われると、全くわからない。